和牛焼肉「勢」社長 伊勢尚徳さん 第二回

ルーコです。

2008年08月06日 12:15

『肉に関わるたくさんのお店が次々に潰れていきました… 逆に底辺からのスタートなので、上がって行くしかないんですよ。』


お話の流れだと、焼肉店経営の会社を退職してから勢オープンまで1年ありますね。
その間は、どんなふうに過ごされたんですか?


起業のノウハウなんて全く分からなかったので色んな人に聞いて回ったりして勉強をしてたら半年くらいたってしまいまして。
でも当時は既に結婚していて子供もいましたから何も仕事をしない訳にはいかないんです。
その間は、土方をやりながら会社を作りました。


大変だったんですね




そうですね、傍から見れば大変そうだったかもしれませんが、自分自身は大変とは思いませんでした。
朝から夕方まで働いて仕事が終わったら設計図持っていったり設計士さんのところへ打ち合わせに行ったり…、感覚を忘れないように肉屋さんに包丁を持って行って肉を切らせていただいたりして、ちょっとの時間でしたけど練習して…そんな毎日を繰り返してました。




すごく努力されたんですね。
ところでなぜ、数ある飲食店の中で、焼肉屋さんを選んだんでしょうか?



高校の野球部にいたときに何ヶ月かに一回、みんなで焼肉をやるんですよ。
監督がやるぞ!っていうと父兄の方がお肉を用意してくれてみんなでワイワイやるのが本当に楽しかったんですよ。


なるほど。




肉もそんなブランド牛などでもなかったし、安い肉だったと思います。
でも、高校のときに食べた焼肉は「おいしい」そして「楽しい」焼肉だったんです。
そのとき初めて、焼肉屋に対する気持ちが湧いたんだと思います。
やってみたいなって。
漠然としたものでしたけどね。
単に肉を食べることではなくて、みんなで食べることがとてもおいしい・・・それを提供できる仕事が焼肉屋なんですよ。


なるほど。
みんなで食べる幸せの場を提供しているんですね。
オープンして、その後は順調でしたか?


僕の場合はスタートからどん底でしたから、その後は昇るしかないので、逆によかったかもしれませんね。




どん底というと?




店をオープンした2001年にBSEが出てしまったんですね。
(※BSEとは2000年初頭に起きた牛海綿状脳症の事で、狂牛病とも呼ばれる病気の発症により消費者をも巻き込んだ問題。)
それがオープンの2ヶ月前に起こってしまって、焼肉業界のみならず、精肉業者などにも
大打撃を与えてしまったんですよ。


そういえばそういう時期がありましたね。




肉に関する職業の人はもちろんのこと、友人からも「まずいんじゃないのか?」と言われる毎日で。
でも店もかなり出来上がって来ていたし、厨房も出来るからそろそろタレを作り始めようかなと思っていて頃だったんです。


すごいタイミングだったんですね・・・。






そうですね。
肉に関わるたくさんのお店が次々に潰れていきましたね。
でも、逆に好転したこともあるんですよ。



そんな時期に?




そう、逆に底辺からのスタートなので、上がって行くしかないんですよ。
谷のようなアップダウンではなく、ゆっくりだともしてひたすら上がっていける
っていう状況です。
何も考えずにひたすら頑張ってやって行けますからね。


すごくポジティブな考えですね!




そうかもしれないですね。
あとはBSEがあって皆さん肉を避けていた分、逆に肉食べたいな~、焼肉食べたいな~っていう気持ちが2ヶ月間蓄積されて我慢していた状態だったと思うんです。
だから「勢」ができて、たくさんの方が来てくれたのかもしれないです。
どの焼肉屋さんも焼肉以外の麺やスープなどでセールを組んだりしていた時期でした。
どの店もお客様を呼びたいということがひしひしと伝わってきてました。


ではそのタイミングも戦略だったんですか?




それは結果論でしょうね。
でも何事もタイミングでしょうけどね。
例えば占いなんですけど、僕はあまり気にしないタイプで、占いによれば、店を出すタイミングとしてはあまりよくなかったらしいんです。
けど、父親には「自分がやりたいと思ったときが一番だ!」って言われたりしましてね。
本当はBSE問題があった9月にオープンしたいと思っていたんですよ(笑)。




それはまた、怖い話ですね(笑)。




本当なんですよ。
僕がお世話になった方から、「9月は良くないから、11月にオープンしろ!」って言われて、なぜかそのときは、「そうしようかな」って思ったんです。
それがあって乗り切ることができたんですよね。
自分がこの人の意見を聞きたいって思って・・・そうしたら結果的に好転したわけで・・・。
過去を振り返って占い書を見れば、当てはまることはたくさんあるんでしょうけど、そんなことはやってみる前には分かりませんよね。


そうですね、私もそう思います。




現在は、過去やって来たことの結果ですからね。
振り返ることよりも前進して行きたいですね。




すごく大事なことですね。
ところで、私は勢さんのスタッフのみなさんのあいさつに感動しました。
いらっしゃいませというあいさつひとつとっても、普通ではない!と思いました。
スタッフ教育に関して何か特別にやっていることなどはありますか?


そうですね。やはり僕たちの仕事は、牛や豚、さらに鳥などの命をいただいてやっている
仕事ですからね。無駄にできる部位なんてないっていう気持ちを持って臨まないと
いけない。
ちょっと切りすぎちゃって、いらないので捨ててしまうなんて、とんでもないことだと僕は考えているんです。


確かに、もとは命ですもんね。




ですから、牛などの命を絶つ現場に連れて行って見てもらうことにしています。
とてもショッキングな光景だとは思うんですけどね。
でも、大事な命をもらって仕事させていること、ご飯を食べさせてもらっている現実をスタッフには自覚して欲しいと思うので大切な場です。
もしよかったら是非一度は見てみるといいと思いますよ。
すごく考えさせられる場だと思いますので。


きっと目を背けてしまいそうですけど・・・・。
聞くだけで胸に迫るものがあります。



命に対して本当に感謝の気持ちですね。







その社長の気持ちがスタッフに行き届いているんですね。
でも本当にスタッフの皆さん元気ですよね。
研修などを厳しくやっているのですか?


研修はそんなにないですよ。基本的にはやってみせるという感じです。
うちはマニュアルっていうものはあんまりないですからね。



やってみせるというのは誰かに付けて、ということでしょうか?




そうですね。
若葉マークをつけて、それでベテランスタッフに付いて感じてもらっていますね。
マニュアルでなりたっている挨拶では寂しいですから。
ただちゃんと知識として覚えてもらうこともあって、イラストを描いて、「ここがカルビで、ここがロースで・・・」とか・・・。
そういった勉強はひととおりしてもらってます。




商品説明は必須ですね。




そうですね。
あとは基本的に「自分がしてもらって嬉しいことをしなさい」って言ってあります。




では、あの気合いの入った挨拶は、社長にとって、してもらいたいことだったんですね?
すっごく気持ちのいい雰囲気ですよね。



人によってはびっくりするかもしれないですね。
最初は「ここは何屋だ?」って言われることもしばしばありましたからね(笑)。
色んな人やバイトさんからも「ここは居酒屋じゃないですから」って声があがったけど、自分は大きい声を出すことがいけないとは思えない。
お客様が来てくれて嬉しくて大きな声で挨拶するのが悪いとは思えないって思ったんです。
だからその感謝の気持ちを込めて大きな声で「いらっしゃいませ」ということ。
声を揃えて「ありがとうございました」っていうこと、それだけはみんなにやってもらっています。


声が揃っていて大きくて、「おぉっ!」と思いました。




最初はなかなか揃わなかったですけどね。
実は結構難しいんですよ。
ひとりが「いらっしゃいませ」と言ったら、他みんなが揃って「いらっしゃいませ」と言うんですが、最初の「いらっしゃいませ」が聞こえてからみんなで言う「いらっしゃいませ」とのあいだの間のとり方が、人によって違ったりね。
でも今じゃ自然にやってます。
照れもあったんでしょうけど、みんながお客様に感謝の気持ちを持つことで、照れもなくなり大きい声を出すことができるようになっていったんだと思います。


単に「いらっしゃいませ」と言っているだけではないから、聞いた人が感動するんですね。




次回に続きます!!

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